愛してる

唐突に首を吊ろうと思ったのは、傍線部④がどこにも見当たらなかったからだ。
有るべき所に有るべき物が無かったからその瞬間何もかもが面倒になって「そうだ死のう。」

以前も使用したロープを片手に学校の屋上へ到達。こんな俺が生徒会長なんだってんだから世の中はやっぱり狂ってる。
使用済みロープはもちろん首吊り用。前回のように引きずり下ろされて病院送りにされるのなんてまっぴらごめんだ。

空には数億の星空。俺はアパシーシンドローム。こんな因果はそうそう無いぜ、感情で働きかけることを俺は知らない。
やわらかい土と虫の声。不純物の混じらない窒素酸素二酸化炭素。感情の混じらない糖脂肪アミノ酸

客観視するしかないだろう。こんな世界と俺との間に繋がるものなんてひとつも無い。
主観的な思考を持つ人間。脳みそを持たないなにか。均衡の取れた世界。「なにか」は死ぬという事実。

フェンスに縄をかける。既に輪が作られたロープの先端部分が妙にグロテスクでそっと俺を受け入れるように。
ゆっくりゆっくり締まっていく感覚。フェンスの向こう側で俺は際際に座り込む。

優しく動く。ロープが擦れる感覚が首に伝わる。首元を撫でながら激しく張り詰めると、意識が断線する。
あれ、この近視感はなんだろう。ふと下半身に眼をやると勃起していた。ああ、ロープとセックスをしている。

薄い意識の中でそっと聞こえ出す虫の鳴き声。全身を撫でる春の夜風。桜の香り。
涙腺の活動を初めて意識した。感情が頬を伝ってロープに染み込んだ。生まれて初めて感動を知った。

死にたくないと思った。生きたいと思った。人間になりたいと思った。感情を持たないなにかが、とても哀しい存在だと知った。
拙い手でふらふらロープを開放して、フェンスに足を掛けた瞬間、血液の活動が追いつかなくなった。力は抜けて、引力に引っ張られていった。

俺は地面に思いきりキスをして、埋まり込むほどにハグをした。感情を知ったなにかは、人間になった瞬間深い愛を知った。