最後の晩餐

「ねえねえ」
「なんだよ」
「ホテル行きたい」
「じゃあ服着ろ」

午前一時。俺達は秋めく情緒などには一切触れずに家から五分のラブホテルへ出掛けた。年寄りばかりの住宅地にそびえる掘っ立て城のようなこのホテルが彼女はお気に入りで、人気の無いホテルでサービスの朝食を食べるのが好きだった。アダルトな空気は陳腐で光のない俺の眼は彼女の付け睫毛を追っている。彼女はメニューを開きしばらく後トーストセットのアイス付を頼んだ。

赤みがかったライトはベットの上の二人を照らす。部屋は静かだった。いつもの通りに。粘膜の擦れる音は今晩も響かないだろう。大きなベッドは心地良いと彼女は漏らす。そろそろ秋だなと俺は言う。セミが鳴かなくなったねと彼女は返し、再び静寂が訪れる。ねえ、セックスしよう。

「  」
「なに」
「だっていきなりセックスなんか」
「ここ、どこだと思う?」


彼女の口は暖かい。最後にしたのはいつだったろう。忘れていたはずの昔の彼女が股の間にいる。俺は彼女を抱きかかえてベッドに投げ足を開きながら深くキスをした。

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「おなかすいた」
「もうすぐ朝食だから」

既に柔らかな俺と乾燥した彼女は絡まりながらまどろんでいる。彼女はもぞもぞと俺の腕から抜け出し裸のままそばの椅子へ腰掛けた。

「気持ちよかったよ」
「うん」

彼女は鞄から金属フィルムを取り出すと半分程無くなっているシートから錠剤を破り出して口へ運んだ。ひとつ。ふたつ。みっつ。金属の擦れる音を聴きながら俺は彼女を見ていた。全て飲み終わった時、彼女は綺麗な眼で俺を見た。懐かしい気がしたのは、今日初めて眼を合わせているからだろうか。

「止めないんだね」
「なあに、それ」
「コーク」

彼女の顔は青ざめていた。コーク。俺はベッドから這い出して彼女へ寄り添う。なあに、それ。コークだよ。だから、さ。そうじゃなくて、

「さよならってことだよ」

震え出した彼女は熱かった。青い顔は朱に染まって胸は桃色だった。性的な香りがした。彼女にキスをしたとき俺の頬が冷たかったのは彼女が泣いていたからだった。もう一度キスをして、彼女の舌の動きが止まってから俺は服を着て朝食を待ち腹を満たした後部屋を出た。