こしあん

鯛が泳いでると思ったらたい焼きだった。しかも白いやつ。多分町田産。
捕まえようと思ったけど冷水恐怖症の私はお水に触るのが怖くってただ白いたい焼きを見つめてた。そのうち白いたい焼きは逃げていったけど、尻尾のところが少し焦げてたから、やっぱり私が食べてあげれば良かったなと思った。だって 焦げ目のある白いたい焼きなんて誰にも食べてもらえないもん。
私は焦げ目のある白いたい焼きのために冷水恐怖症を克服しようと決意した。とてもとても大きな決意をしたのだ。32℃以下のお水に触るなんて考えただけでもぶるぶるするのに。

それら一連のお話を彼氏に聞かせたら、『じゃあ釣り上げればいいじゃん』なんて提案をした。くそ。私がこんなにも苦悩して導き出した結論を彼氏は簡単に足蹴にしてしまう。いつもそうだ!風邪っぴきのくせに!

いい提案じゃん、と思った私は彼氏に内緒で焦げ目のある白いたい焼きを釣り上げようと道具を揃えて家を出た。たい焼きを釣るにはどんな餌が適しているのかわからないから色々と雑多に詰め込んだ鞄を背負っていった。鞄は私の半分くらいの大きさまで膨らんだ。

ようやく到着して、早速釣糸を垂らしてみた。餌は台所にあったホットケーキミックス。ひょいっと投げ入れたら綺麗な弧を描いて飛んでいった。私は釣りが上手いんだ!誰も知らないけれど!

20秒後竿がびくりと引く。この感触は紛れもなく焦げ目のある白いたい焼きのものだ!そう確信して慎重にしかし確実に竿を引き上げる。随分早く出会えたことに興奮して最後のひと引き。引き上げた先には15cm程の白いたい焼きが食い付いていた。
白いたい焼きはぴちぴちと活きがよかった。まだふやけていないし。ふわふわしていてとても美味しそうなのだ。尻尾には茶色い焦げ目。もうだいじょうぶだよわたしが残さず食べてあげるから!いただきます!

かじりついた尻尾から覗いたのはなんと滑らかなあんこであった。青ざめた。まさか、まさかたい焼きがつぶあんじゃないだなんて!私は騙されたのだ!瞬間白いたい焼きを川に投げ捨てて逃げるように家へ帰った。

家へ着いてホットケーキを焼いた。たい焼きの餌はとてもおいしかった。彼氏が『あんこ乗せようよ』と提案したので、くそ、いい提案じゃんと思いつぶあんを挟んで食べた。私はこの日に、白いたい焼きなんかは二度と食べてやらないと誓ったのだ。ホットケーキで十分なのだ。そしてたい焼きはつぶあんしか認めないのだ。