昔話

毎日きっかり深夜二時に、メールを送ってくる友人がいる。メールには他愛もない二、三行の文と、真っ赤になった腕の写真の添付。アートのように切り刻まれた彼の腕を見て、ああ、今日もこいつは元気なんだな、そう思う。
彼とは家が近い。毎週のように合わせる顔だけれど、俺は彼の笑顔以外の表情を見たことがなかった。ある夜、冷蔵庫の無い彼の家から自販機まで出掛けた午前二時半。雨が止んだ後の外気の心地良さが俺達二人を散歩に誘い出した。河川敷を辿り、広くて深い空の下、ぽつぽつ、何を話したのかも既に忘れてしまったけれど、その時初めて本当の彼を見た気がした。普段太陽のように明るい友人は、その夜だけ、ブラックホールになっていた。どろどろ。ぐるぐる。夜よりも濃い影になってしまっていた。光が見えなかった。
綺麗だと思った。真っ暗な人間は綺麗だと、俺の価値観はそんな些細な夜に塗り替えられた。

思い返しているうちに、俺は寂しくなった。時計の文字盤は02:07。
携帯は鳴らなかった。
死んだ友人を、夢に見た。