音楽に溺れながら歩く早朝に口から零れるのは気泡ではなくて白く染まった吐息だった。二枚のレンズに狭められた視界は自らの吐息で色を変える。呼吸する度に凍えていく血液の活動は低下する。身体の内部から刺すように冷えていく感覚をリアルに感じながら踏切の耳障りな音をやり過ごす。

俺は、この時期、この時間、この場所から見える朝日の逆光に焦がされた黒く血走る枯れ木を見るのが好きだ。普段は日が高く昇った頃に家を出る俺だけれど、冬だけは決して遅刻することはない。友人は皆奇妙がる。俺は理由を話しはしない。俺だけの景色であって欲しいと思う。

電車の窓に切り取られた冬の空を眺めるのが好きだ。沈殿するような朝焼けがフレームに収まる。俺は毎晩その景色が焼きついた瞼の裏を眺めながら眠る。冬は寝付きが良い。青白い俺の顔の酷い隈は冬の間だけ姿を消す。

冬の真夜中が好きだ。人の少ない交差点で主張する信号機の色が澄んだ空気に触れて幻想的に瞬く。車のライトが眼を射抜くときどこか異世界にいるようだと思う。冷たい風が俺を襲い俺は眼を閉じる。この極東の錆び付いた島国の真ん中でじっと眼を閉じる俺を見つけてくれ。冬に映える俺を見つけてくれ。

俺は冬が好きだ。