ハロウィン

「とりっくおあとりーと!」

そう言って俺の胸に飛び込んできたのは俺の担任するクラスの少年だった。包帯でぐるぐる巻きになった身体を俺に預けて微かに茶色がかった眼でこちらを見る。こいつの眼が普通の日本人よりも茶色っぽいだなんて、きっとこの近さでなければわからないだろう。じっとこいつの眼を覗く俺にしかわからないだろう。

「ミイラ男か」

「せんせい、お菓子ちょうだい!」

そう包帯の下でもごもごと喋る少年に、俺は小さなチョコレートを5,6個やった。茶色い眼がきらきらと輝く。ありがとう先生!少年はそう言いその場でひとつ包装を剥き口元の包帯をずらしてチョコレートを頬張った。幸せそうな顔を観察する俺に、少年はカカオの吐息でこう聞いた。

「ねえせんせい、どうして死んだ人をミイラにするの?」

「うん?……そうだな、色々あるんだろうけど、死んだ人と別れたくなかったってのも理由なんじゃないかな」

頬杖を突きながらそう答える俺に、茶色い眼は曇る。

「どうした?」

「そんなの、動かない人とずっと一緒にいたら、よけい哀しくなるよ」

憂いた感情をこちらに向ける少年に俺は夢を見た。動かない人間とずっと一緒。

(動かないお前と、ずっといっしょ。)

「考えたら哀しくなってきたよせんせい」

わあ、と俺に抱きつくミイラ男に俺は手を伸ばす。頭を撫でる俺の手が細い首元に移動して、ミイラ男の耳元で、熱を持ち掠れる声でこう囁いてやった。

「ね、俺は今日、ドラキュラなんだよ」

がぶり。ミイラ男を襲う俺は乱れた包帯を見下ろして怯える瞳にキスをした。いただきます。


(動かないお前と、ずっといっしょ。)

考えただけで、死ぬほど興奮する。
生きてるとか死んでるとか、もう、どうでもいい。


トリックオアトリート!