恋愛

蒸し暑い部屋の中央より少々左に寄った西日の激しいベッドの上で一定速度の上下運動を繰り返す右手をじっと見ていた。その右手の持ち主は汗でよれたエロ本を左手に丸めて時々籠った溜め息を吐く。ズボンのチャックだけが下ろされていて他に着衣の乱れはない。私は彼の自慰を乾燥した瞳で写しながら遅めの昼食を摂っている。キャベツが痛んでいて瑞々しい歯ごたえを感じることは出来ない。気休めのようにマヨネーズのチューブを握りしめた。大量に垂れ流される油と卵の混合物、それと同時にベッドの上の右手も弾けたらしい。荒い息使いが響く中でひとつごくりと咀嚼の音、刹那無音の中に外からの子供の声。騒がしさは一瞬で溶けた。再び私は箸を動かす。

「もう食べ終わるよ」

キャベツを刻み始めたときから始まった彼の自慰は日に日に所要時間を延ばしていた。俗に言う遅漏というやつだ。彼はベッドに沈んでいる。疲労に身を任せるその姿はまるで溶けたグミのようだった。クマの形のグミをPCのファンの横に置いておいたらどろどろになっていたことがある。まさに、それ。少し可愛いと思った自分の頭が一番溶けているのかもしれない。どろどろに溶けたクマのグミは、ゴミ箱に捨ててしまった。

不感症の私を彼は側に置いた。ただ痛がる私では彼は達することが出来なかった。彼のアレの味は好きだけれどそれよりもマヨネーズで埋まったキャベツの味の方が好きだ。だからこの状況は何もおかしくなどない。極東の、古ぼけたアパートの、夕方の、四時半過ぎ、どこにでも見られる光景。五時の鐘が鳴ったら、いつものようにスーパーに行く。