笑っちゃうほど生きてる

都会に長く住みすぎたせいか、私はいつしか虫を嫌悪するようになってしまった。
虫に対する好奇心は無機質なコンクリートに埋まりギラギラとしたネオンを愛すうち虫の美しさを思い出す事もなくなった。蝶や蛾の二つとない羽模様や削れる鱗粉や不規則に羽ばたく可憐さを拒絶するようになって季節は何周も巡り何度目かの春を迎える。網膜に映る褪せた桜色を覗いてしまう人がいなかったのは幸せだったのかもしれない。乾いた瞼の瞬きは桜の散る音に似ていた。
桜色のノイズが走る公園には幾名かの子どもが舞っている。黄色い服に引き寄せられるように重い腰を引っ張り草むらへと向かう。背を向ける黄色い一人の子どもの手には鮮やかな緑が握られていた。もう片方の手が緑を掴むと、意外すぎるほど簡単に足は千切れた。
足を一本なくしたカマキリはバランスを崩しながらすぐにどこかへ隠れてしまった。きっと身体の半分をなくしてもジワジワと活動を続けるのだろう。小さな身体に秘められた生命力の不気味さに私は怖じ気づいたのだろうか。生きるという恐ろしさに私は眼を背けたかったのだろうか。ふと昔の自分を思い出して、にこやかに言う。


「ねえボク、虫は好き?」