ボランティア

「おはようございます」

粘つく朝の挨拶は虚しく滑る。45リットルのゴミ袋はたちまちに埋まってゆく、街中に散布された人間の悪意を僕は毎週金曜日の早朝にかき集めては捨てるのだ。
駅へ向かう人々の眼に自我を見ることはできない。正確な周期に基づいて自らを殺す人間達の多さに僕はため息をついてしまう。また一人、短くなったタバコをアスファルトへ埋める人間を傍らにして、新しいゴミ袋を呼吸させるように広げれば怪訝な顔を人々の間に生み出すことは簡単だった。その表情は僕の胸を打ち鳴らすのに十分すぎる。

公衆トイレから漂うすえた臭いは嫌いじゃない。反対に、人間達の本当の臭いを誰も受け入れようとしないことが不思議だった。散り散りになったトイレットペーパー、乾いたガムのアップリケ、黄色くなった使用済コンドーム。僕はそれらに血の繋がり以上の親近感を覚えた。割れた鏡には僕の顔がスライドするように写っている。あらゆる表情を継ぎ接いで作った仮面を思う。

八月の第三金曜日のことだった。
夏の公衆トイレは凶悪な香りで満ちる。丸々と太った蛾を踏み潰しながら、僕はいつもの親近感の中に絡まる甘酸っぱい香りを嗅ぎ分けた。
奥から二番目、空室の青が主張しているけれど扉は閉まったままだった、「誰かいますか」呼びかける声への反応はない。無理矢理に押し開くと黒いパンプスが覗く。女だ。ストッキングは皮膚を剥がされるように裂けている。ギイイ。扉はつかえて最後までは開かなかったけれど、”女だったもの”の赤く散った胸や使い回された女性器や赤黒く腫れた顔や首に巻きついた鞄の細い紐は全く問題なく確認できた。

「これは……一枚じゃ、足りないかな……」

分別に困る。不法投棄は厄介だ。