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ある罰

「それは、私が最も生きることに困窮していた頃の話だ」

嗄れ声の彼は口を開いた。

「私がまだ21歳のときだ。とは言っても、私は21歳を5年生きた。これは、多少難しい話だから、また今度話そう。とにかく、その5年間、私は、ある国で、兵隊として生きていた」

僕のおじいちゃんは、その青い眼を僕の方へ向けたり暖炉の方へ向けたりしながら、昔話をしてくれた。暖炉のそばには大きな蜘蛛が巣を張っていたから、おじいちゃんはそれを見ていたのかもしれない。

「おじいちゃんはどんな国に住んでいたの?」

「危ない国だよ。お前くらいの子どもはみんな武器を持っていた。ばらばらの国から連れて来られた人間が入り混じった、ばらばらの国さ」

おじいちゃんは細い指をぎしぎしと動かしながら話した。指先を見つめる青い眼は伏せられた瞼で見えない。僕はおじいちゃんの眼が大好きなんだ。青い眼って、とってもきれいだと思わない?
もう片方の、おじいちゃんの潰れた左眼は、暖炉のそばにいたからか、いつもより乾いて見えた。

「お前は、戦争というと、飛行機で空から爆弾を落としたり、ジャングルの中をガチャガチャとかき分けながら進んだりするのを想像するかもしれないね。私が戦っていたのは街の中だった。煉瓦作りの家々の壁には、銃弾の跡が絶えなかった」

僕はおじいちゃんが話している間、お父さんの机に座って絵を描いていた。お父さんから貰ったギターはいい音がするけれど、あまりかっこいい見た目ではなかったから、新しいデザインを考えていたところだった。黒いクレヨンを手に取ったところで、僕は手を止めて、おじいちゃんに聞いた。

「銃弾って何色なの?」

「銃弾は、鉛色だよ。お前の右腕にある時計と同じ」

僕は黒いクレヨンを置いて、代わりに白を選んだ。

「みんな、戦時中というとまるで月面のような世界を想像するけれど、それは違う。戦時中だって地球は地球さ。空は青いし、葉は緑だし、血は赤い」

「夜は?」

「夜は藍色。それも今と同じだ。星の並びも変わらない」

言いながら、おじいちゃんは暖炉の中に刺さった火掻き棒を手に取って、側の蜘蛛の巣を払った。真っ赤な火掻き棒の先端は、またすぐに暖炉の中に戻る。

「戦争の間、毎日毎日人を殺した。代わりに、何人もの仲間が殺された。みんな紙切れに名前と死んだ日時を書いて、それでおしまいだ。ある男の人生はそうして一枚の紙になってしまう。女たちは毎日、死んだ男の名前をタイプして、金をもらっていた」

人の名前を書くだけの仕事は退屈そうだな、と僕は思った。

「そんな倫理も道徳もない銃弾だらけの街で、ある日、ひとりの貧しい老人が製鉄所から鉄くずを盗んだ。その頃は、鉄くずといっても価値は高かったから、盗むやつも多かったんだ。ただ、その老人はすぐに捕まってしまった。そして、兵器の元となる鉄を盗んだという重い罪で、正式な裁判にかけられた。罪のない人間が毎日殺される街で、その老人は見せしめのために、銃殺刑を受けた」

皮肉なものだ、とおじいちゃんは呟いて、笑った。

僕は、皮肉、という言葉がどういう意味なのかはわからなかったけれど、その老人がどうしようもなくその鉄くずが欲しくてたまらなかったということが、僕と同じように思えて、嬉しかった。僕はその老人と、いい友達になれそうだ。