ピイナツ

Aは日常的に爆弾を抱えている。

俺の隣で煙草をふかすその左腕には、二の腕まで伸びる無数の傷跡。
「それ、すげえ目立つ」
顎で指した俺の言動に一瞬目を丸くしたAはしかしすぐに煙を吐き出し口を歪ませた。
「夏だからな」
「お前、カッターは右で持つわけ?」
だって左で作業するんだから左に傷つけたほうが目立つだろ。二本目の煙草に火を付けるA。
「何がしたいの」
「したいことなんてないよ。生きることは現象だから」
「でもお前のしてることは意味の無いことじゃないだろ」
「じゃあお前、自分がなんのために生まれてきたんだろうとか馬鹿げたことを思う人種なんだ?」
俺が話したいことはそんなことじゃないよ。頭の良いAは多分それすら気付いてる。
Aの首からぶら下がっているピルケースを見つめながら、あれそういえばこれはいったいいつからあるんだろう。
「じゃあもういいよ。お前にもわかってもらえないんなら俺こんな現象に組み込まれていたくないからさ」
ピルケースに手を伸ばしたAの笑顔と手の中のピーナッツがやけに脳裏に焼きついて。

かりっ。

軽快な音を響かせてAは痙攣しながら俺の足元で息絶えた。

左利きの友人に起こった最後の現象はアナフィラキシーショック