さみしいときはローズマリーを焚くの

足が長く美しい妻、スーツの似合うハンサムな夫、そして理知的な顔つきでバーバリーの洋服を着ている二人の子ども。マネキンのような四人家族が私の目の前のテラス席で朝食を食べていた。
焼き色の素晴らしいトーストに妻は紅茶を、夫はブラックコーヒーを飲みながら新聞を広げている。子どもたちは、おとなしく、けれど食事の楽しみを忘れないような会話をしながら、背筋を伸ばしてベーコンサラダを食べている。「ガラスでコップを作れるんだって。楽しみだね」「うん、とても。お父さんは、今日もお仕事なんだよね。お父さんのぶんもじょうずに作るから、お仕事がんばってね」新聞から眼を離して子どもたちを見ながらコーヒーをすする父親は、落ち着いた優しげな表情でありがとうと言う。薄い唇は自然な笑顔を作る。妻はそのやりとりを幸せそうに見つめながら紅茶を飲み、時計を覗いて「あなた、そろそろじゃない?」と言った。「ああ」新聞をたたみ、子どもたちに上着を着せると、私の隣を通り過ぎて四人家族は店から出て行った。ローズマリーの香りを残して。
すれ違いざまに店へ入ってきた女性は、一見すると少年にも見えるような短い髪をして私の前へ座った。前髪の下の長くした睫毛と色づいた唇で、やっと女性だとわかる。
「おはよ。で、詩は書けた?」
「……あの家族、」
「は?」
少年じみた彼女は私の言葉に怪訝な顔をして、すぐに振り返ってからまた答えた。
「ああ。今の家族?マネキンみたいな家族だったな」
「うん。あの家族、きっと幸せにならないだろうから、あの家族が幸せになるはずだった未来を歌おう」
四人家族が座っていたテラス席へ向けた携帯の録画ボタンを止めて、ノートの左側をすべて破り捨ててから、まだ白いノートの左上にタイトルを書いた。きっと愛しい曲になる。