2010-01-01から1年間の記事一覧

個人授業

【棒線部Aについて、具体的にどういうことか。100文字以内(句読点も含む)で説明せよ】赤い太陽に燃える教室。響く音はシャープペンの削れる音と、彼の声と、そして 【相互の体験や思考法がずれ、互いの想像力】20文字、そして彼女の手で紡がれるゴムの屑片…

戦争がもたらしたもの

戦争は終わった。東京は灰になった。彼女は骨になった。札束は焼けた。俺はケロイドになった。ただそれだけのことだ。なにも変わらずにただ地面を見下ろす。俺の足元だけ何故か雨が降っている。ぽたぽた。ああ。ただそれだけのことだ。

羊水

濡れタオルを顔に被せ顎まで湯に浸かる。呼吸に合わせて揺れる水面は切れ切れに思考を遮る。酸素量60%。薄れる意識。訪れる頭痛。落ち着いてしまうのだ、どうしようもなく。生まれ落ちる前まで戻れたなら。母の声が私を現実に引き戻す。いつも、私は、そう…

ふたご座流星群

夜の闇と流星群が僕らを包む。君の涙は流れ星に似ている。君を泣かせてしまえたら、僕の願いは叶うのかい?

百人記念

車窓に切り取られた風景は生き急ぐかのようにぱらぱらと色を変える。今までこんな風に世界を見たことはなかったのに。なんだかアレみたいだな、初めて意識した言葉が異常に目に付くようになる現象。ホラ、なんて言ったっけアレ、アレ、 「おい」 え、何。な…

問答

「どっかの誰かが言ってた。矛盾してる事なんて生きてる間はいくらでもあるってな」「そんなこと誰が言ったんですか」「誰でもいいんだ。別に誰も言ってなくたっていいんだよ」「止めて下さいそういうの吐き気がする」「聞き流せよ。俺もお前の現実主義って…

ミルク

牛乳がポストに投げ入れられる音で眼が覚める。最近はずっとこんな生活で、眼が覚めると青い空や分厚い灰色やノイズがかったような天気と雨音のセット、違うのは寝ぼけ眼で仰ぐ窓枠の中だけ。ここ何日かは毎日二本の牛乳が俺の体内に入る全てで、俺の体の6…

昔話

毎日きっかり深夜二時に、メールを送ってくる友人がいる。メールには他愛もない二、三行の文と、真っ赤になった腕の写真の添付。アートのように切り刻まれた彼の腕を見て、ああ、今日もこいつは元気なんだな、そう思う。彼とは家が近い。毎週のように合わせ…

太陽を直視すると眼が潰れると云う。小学生の時にそう学んだにも関わらず私は彼を真っ直ぐに見つめてしまったのだ。私の眼は既に何者も映そうとはしない。彼の大きさに圧倒され私は潰れてしまった。彼の輝かしさに焼かれ私は濃い影となってしまった。

ムービー

スクリーンが揺れている。コントラストな映像がちらついて虹彩は収縮を繰り返す。最後列でムービーに臨んでいる私はスクリーンよりも映写機に近い奇妙さを揶揄しつつ笑うこともなしに意識は20m先。きっとこの世はこんなアイロニーで構成されているのだろう。

防音

フォルテッシシモな俺の感情を見ていてくれる奴はいないしこれからも見込みはない。鼓動がペザンテで打っている時だって大量の薬を飲んで一人指揮棒を振るだけで電気信号は音楽になる。 「+++」肩を叩く衝撃で外部の音に気付く。そこに立っていたのは物心つ…

猫娘と牛模様

ああ空を飛びたい。 八畳の殺伐とした部屋の中一人ベッドに寝転ぶ学生服の少女は空っぽの頭でそう思った。現在平日午前十時。開け放たれた窓から真っ青な空を臨む彼女の黒い瞳は空と同化して藍。 朝は七時の目覚しで起床。パジャマのまま一階へ降りるとキッ…

価値

女の価値というものを考える。美人でなければ石を投げられ結婚すれば家政婦になり夜中に外出すれば強姦される女の価値というものについて考える。女とは何ぞや?答えが出ない?では、男とは何ぞや?これも、答えは出ないか?では、私が講釈して進ぜよう。 私…

世にも奇妙な猿を譲り受けた。大きな檻に入れられた三歳児ほどの体格の猿は俺の部屋の大部分を占領した。 猿の元飼い主で俺の友人でもあったYは酷い顔色をして俺のアパートの扉の前に立っていた。昨夜のことである。 [気味が悪いから貰ってくれないか] そ…

三島由紀夫と坂口安吾

「高尚な精神は低俗な魂の前に破壊される」と彼も言っていることだし、私はそもそも高尚であることになんの興味も関心もありはしない。低俗に堕ちきることこそが人間らしい生き方です。これはS氏のお言葉ですがね。 ---------- 興味がないのは形式的な高尚。…

繋がる

十年前別れた彼女に手紙を出した。三日後携帯に彼女から電話。「今度30円返してよ」久しぶりに聞いた彼女の声は十年前とちっとも変わらないね。呆れたふりしてももう離さないよ。50円切手は僕と彼女を繋ぎ止める。

こしあん

鯛が泳いでると思ったらたい焼きだった。しかも白いやつ。多分町田産。捕まえようと思ったけど冷水恐怖症の私はお水に触るのが怖くってただ白いたい焼きを見つめてた。そのうち白いたい焼きは逃げていったけど、尻尾のところが少し焦げてたから、やっぱり私…

吐露

便所から響く水音で眼が覚めた。溜め息をしまい込んで光の漏れる便所戸を開くと最近見ることのなかった同居人の背中。同時に3時間前食べた夕飯が原型留めず便所の底に溜まっていた。「髪に付いてる」そう言った俺の声は寝起きで掠れている。彼の長い髪は自…

ゴオ

珍しく口を閉じている同居人が心底不気味で「何見てんの」声をかけた西日射す六畳間。 「もくせい」 もくせい。彼は俯いているので睫毛の先を追った。小学校に置いてあるような図鑑を開いていてきっと彼が見ているものは木星と地球が隣り合っているこの写真…

ヴァイルス

私の夢?私の夢はね、ウイルスになって、あなたに感染して、ゆっくり、あなたを内側から犯すことなのよ。抗体はあなたの愛。私を愛してくれれば開放してあげられるけれど、あなた、私のこと愛せる?ねえ、愛せる?愛してよ。愛してくれなきゃ、殺す。

ゆゆし

彼女は誰もが認める絶世の美女だった。町行く人は皆彼女に意識を奪われたが不思議なことに彼女の容姿を褒めるものは過去に一人も表れなかった。彼女を愛す る神が彼女を束縛していたからだ。只今神は腹を下しトイレに籠っている。彼女に近づく下品な眼をした…

断髪

髪を切るほどの決断も出来ない僕に一体何を決断しろって言うんだ

漂う

一人昭和の香りが残るこの部屋で白熱電球を灯しながら眼を閉じる。部屋の四隅には光が届いていなくて、闇も光もいっしょくたの夜。呟く言葉に返事をするのはあやしつけるような優しい雨音で瞼の裏を眺めて意識がほどけるのを待つ。いつまでも独りの夜。

平成コンプレックス

おお大正ロマン。ワタシを明治に連れてって。

最後の晩餐

「ねえねえ」「なんだよ」「ホテル行きたい」「じゃあ服着ろ」 午前一時。俺達は秋めく情緒などには一切触れずに家から五分のラブホテルへ出掛けた。年寄りばかりの住宅地にそびえる掘っ立て城のようなこのホテルが彼女はお気に入りで、人気の無いホテルでサ…

ぼくのすきなもの

祖父は歩くことが大好きだった。そして骨粗しょう症になった。祖母はとても頭が良かった。そして痴呆症になった。父は甘いものが大好きだった。そして糖尿病になった。母はお喋りが大好きだった。そして舌癌になった。俺は一生健康だった。

イキたいシたい

樹海にいこうと先輩が言ったのではい喜んでと嬉しそうに応えたのがつい20分前のことだ。 いつもは何を考えてるのかわからないような眼をしてめったに動かないくせに行動するときは強引なんだいつもいつも。 初めてのデートが樹海ですか変わった趣味してます…

ラブ

軋轢だ。金属で固められた心は触れると耳障りな音がする。だから僕の心は剥き出しなのに君の心の盾は僕の血で染まっている。滴って、乾く間もなく僕はまた君に触れて、擦り切れた僕の心は君の足元でグロテスクに輝いているだけ。

ひとりじゃない

いたるところにあなたを見た。眼を覚ますと天井からおはようと言ってくれた。あなたの手をひねってドアを開けた。大きなあなたの足を履いて用を足した。冷蔵庫からあなたの髪を出して刻んで炒めて食べた。あなたはいつも笑っている。私はなんて幸せな女なん…

ずり、

網戸で摩り卸される夢を見ている。誰かが俺の頭を押さえつけて離さない。夢から醒めるために頬をつねろうとして、卸されているのは頬だと気付いた。痛みはあった。だから夢じゃないんだと自覚した時にはもう遅くて最期に見たのは頭を抑える俺の左手。