2015-01-01から1年間の記事一覧

アルタイルの恋

その場所は、掘るといっそう湿った土の匂いがした。土を掬うシャベルのふちは不思議と泥を寄せることなくメノウのように滑らかで、月明かりに照らされるとまるで濡れているのかと見紛ってしまう。最後に見た彼女の瞳もずっと濡れていた。つるりとした黒い瞳…

狼女

あ、きた。 全身の血が粘性を持ったような感覚は、満月と共に周期的に私の身体を流れる。頭にかかるもやは冷静さと私を切り離し、ある香りへの執着を蘇らせる。青臭い香りと、鉄錆の香りを、私は求めていた。 「ねえ、君の彼氏、心配してるよ」 青白く脈打つ…

いつまでも幸せだった

「あーほら、またこぼしちゃうわよ」「あーんして。そう、いいこいいこね」 母の料理はとても上手で、僕は子どもの頃から母の料理が好きだった。生まれてすぐの僕が写っている色あせたアルバムには、母の離乳食を美味しそうに食べる僕の姿があった。大掃除の…