2010-11-01から1ヶ月間の記事一覧

ミルク

牛乳がポストに投げ入れられる音で眼が覚める。最近はずっとこんな生活で、眼が覚めると青い空や分厚い灰色やノイズがかったような天気と雨音のセット、違うのは寝ぼけ眼で仰ぐ窓枠の中だけ。ここ何日かは毎日二本の牛乳が俺の体内に入る全てで、俺の体の6…

昔話

毎日きっかり深夜二時に、メールを送ってくる友人がいる。メールには他愛もない二、三行の文と、真っ赤になった腕の写真の添付。アートのように切り刻まれた彼の腕を見て、ああ、今日もこいつは元気なんだな、そう思う。彼とは家が近い。毎週のように合わせ…

太陽を直視すると眼が潰れると云う。小学生の時にそう学んだにも関わらず私は彼を真っ直ぐに見つめてしまったのだ。私の眼は既に何者も映そうとはしない。彼の大きさに圧倒され私は潰れてしまった。彼の輝かしさに焼かれ私は濃い影となってしまった。

ムービー

スクリーンが揺れている。コントラストな映像がちらついて虹彩は収縮を繰り返す。最後列でムービーに臨んでいる私はスクリーンよりも映写機に近い奇妙さを揶揄しつつ笑うこともなしに意識は20m先。きっとこの世はこんなアイロニーで構成されているのだろう。

防音

フォルテッシシモな俺の感情を見ていてくれる奴はいないしこれからも見込みはない。鼓動がペザンテで打っている時だって大量の薬を飲んで一人指揮棒を振るだけで電気信号は音楽になる。 「+++」肩を叩く衝撃で外部の音に気付く。そこに立っていたのは物心つ…

猫娘と牛模様

ああ空を飛びたい。 八畳の殺伐とした部屋の中一人ベッドに寝転ぶ学生服の少女は空っぽの頭でそう思った。現在平日午前十時。開け放たれた窓から真っ青な空を臨む彼女の黒い瞳は空と同化して藍。 朝は七時の目覚しで起床。パジャマのまま一階へ降りるとキッ…

価値

女の価値というものを考える。美人でなければ石を投げられ結婚すれば家政婦になり夜中に外出すれば強姦される女の価値というものについて考える。女とは何ぞや?答えが出ない?では、男とは何ぞや?これも、答えは出ないか?では、私が講釈して進ぜよう。 私…

世にも奇妙な猿を譲り受けた。大きな檻に入れられた三歳児ほどの体格の猿は俺の部屋の大部分を占領した。 猿の元飼い主で俺の友人でもあったYは酷い顔色をして俺のアパートの扉の前に立っていた。昨夜のことである。 [気味が悪いから貰ってくれないか] そ…

三島由紀夫と坂口安吾

「高尚な精神は低俗な魂の前に破壊される」と彼も言っていることだし、私はそもそも高尚であることになんの興味も関心もありはしない。低俗に堕ちきることこそが人間らしい生き方です。これはS氏のお言葉ですがね。 ---------- 興味がないのは形式的な高尚。…

繋がる

十年前別れた彼女に手紙を出した。三日後携帯に彼女から電話。「今度30円返してよ」久しぶりに聞いた彼女の声は十年前とちっとも変わらないね。呆れたふりしてももう離さないよ。50円切手は僕と彼女を繋ぎ止める。