2011-01-01から1年間の記事一覧

メリークリスマス

彼女の細い指に似合うだろうピンクゴールドを温めながら横浜駅で彼女を待つ19:54。日曜に仕事のある僕に合わせて20:00にいつもの場所で待ち合わせた。間抜けな着信音と共に[もうすぐ着くよ]の文字、改札の向こうに見えた彼女は一足遅れて僕を見つけたよう…

ソラナックス

赤みが引かない。 二ヶ月経った。小学生時代の二ヶ月というのはほとんど永遠のように過ごしていたのにいつのまにか時間の早さに追い抜かされてしまっている。赤みが引かないのは追い越すことが出来ない証だ。痒くはない。五年前の身体ではないことに季節を追…

笑っちゃうほど生きてる

都会に長く住みすぎたせいか、私はいつしか虫を嫌悪するようになってしまった。虫に対する好奇心は無機質なコンクリートに埋まりギラギラとしたネオンを愛すうち虫の美しさを思い出す事もなくなった。蝶や蛾の二つとない羽模様や削れる鱗粉や不規則に羽ばた…

いつも

「気持ちいいよ」 君は一体何人の男に同じ言葉を吐いてきたのだろうね。そう問うと僕の下に転がっている彼女は二重を滲ませながら 私でもわからない、と唇を歪ませて言う。とうもろこしのように並んだ歯の間からこぼれる喘ぎ声に溶けて生々しい室内温度。実…

今日

こういう風に感情を爆発させてみたって結局は自分、誰も見ていない、だからかも知れないけど。嫌だし私は幸せだよ、そうやって自分を騙している、のかもしれない。見えないふりをしてきた。何も感じないふりをしてきた。私は私でないふりをしてきた。声を出…

現代の少女の感情

頭上から降ってくる声は苺の匂いがした。甘ったるくて爽やかで、甘いものが嫌いな私は軽い胸焼けを起こしながら突っ伏した机の底から深い溜め息を吐き捨てた。 「だから私と付き合えばよかったのに」「黙れ。死ね」 甘い言葉には辛辣な言葉がよく似合う。冷…

y=ax2+bx+c

放物線の計算式などもはや覚えてはいないから体現してしまうのが手っ取り早いと思ったのです。上履きは週末に洗いました。つま先の汚れがなかなか落ちなかったので二時間ほど風呂場に籠っていたら塩素に身体が痺れました。気持ちよかった。教科書126p側頭葉…

最期

ガチャ、パチ、ポチ、ポチ、プルルルル………………「……ああ、俺だけど、うん」 くすんだガラス越しに見える湿った夜は肌に密着するようで不快だ。受話器を持つ手がべたつくのは日本特有の気候のせいかはたまた俺の心理状態のせいか。電気信号に変換された懐かしい…

発狂

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ…

天使の声

先端恐怖症の俺でもスプーンの先なら丸くて怖くないと思ったんだ。沸騰した血液に追い立てられるようにスプーンの弧は穴へ吸い込まれていく。視力検査を思い出して右目で彼女の大きく開いた瞳を視認すると答えの代わりに出来るだけ優しく笑ってやった。痙攣…

二百人記念

[09081922625] 着信履歴に並ぶ数列はそれ以上の意味を持たない。月の影でさえ私を照らすことはしないのだ。夜に嫌われた私は吐瀉物にまみれた高架下でじっと息を潜めている。 エレクトロな着信音が私を叱る。兎のように耳を逸らして豚のように怠惰を貪る。身…

恋愛

蒸し暑い部屋の中央より少々左に寄った西日の激しいベッドの上で一定速度の上下運動を繰り返す右手をじっと見ていた。その右手の持ち主は汗でよれたエロ本を左手に丸めて時々籠った溜め息を吐く。ズボンのチャックだけが下ろされていて他に着衣の乱れはない…

多色病

都会は生きている。コンクリートに固められた俺の心臓も耳を当てれば微かな鼓動が聞こえるだろう。ただ残念なことに俺の両耳は取り外しなど出来ないから俺の心臓が正常に動いているかどうかを確認することは出来ない。寂れたネオンに炙り出された紫がかった…

どろり

最早手の届く範囲でしかはっきりとした輪郭を捉えることは出来ない。それも指先は既に蕩けているから私の理解できる世界はせいぜい半径50cmてなもんだ、腕の中には何もない。誰もいない。一人分の皮膚のはりつく音が八畳の部屋に響くだけだよ。

アーメン

私はいつまで不自由した生活を送っていくんだろうと思ったけど、自由な生活を送っている人間なんているのかしらね。他人がどうだろうと自分の状況に変化はないから特に関連付けて考えるつもりはないけど。あなたが哀しんでいても私は楽しいし私が泣いていて…

人間

わたしあなたみたいなひとしってる。いつも人の悪口ばかり言っていて、愚痴が多くて、しゃべり方が暗くて、プライドが高くて、人にバカにされるのを嫌っている上に、周りからどう思われているのか、異常なほど気にしているんでしょ?異性と話をすることなん…

到来

大きな樹の下では雨が降っている。舞うように振る大雨に打たれて俺は傘を忘れたことを悔やんだけれど俺と同じように傘を忘れて佇んでいる女の姿があった。黒く長い髪が女の横顔を隠している。女の髪は妙に艶めかしく俺の心臓はいつもと異なる跳ね方をするの…

竜宮城

3月 11日 晴れ ぼくはこの日、たくまくんとりゅうじくんと一緒に砂はまで遊んでいました。海はなぜかいつもよりキレイで、ぼくは海にさわりたいなと思ったけれど、服がぬれると怒られるよとたくまくんが言ったので海に入るのはやめました。砂はまでとても…

凶暴

路地裏の向こう側から凶暴が私を覗いている。一抹の恐怖の中に私は愛を見た。救ってくれると思った。泳ぐように路地裏へと足を進め、闇に完全に溶け込んでしまってから私の身体が地面へ叩きつけられるのを感じた。頬が湿った土に擦れてひやりと私を撫でる。…

アポトーシス

あなたを形作るために死ぬという意義を持って生まれてきた。だからあなたが私の死を哀しむ必要はないわ。私が死ぬことであなたの存在が鋭角なものになるなら、次に生まれる私もその次に生まれる私も、喜んであなたの為に命を捧げることでしょう。

遺言

人は死なないよ。当たり前じゃないか。人が死んだら大変だ。世界は回らない。太陽も昇らない。月は欠けない。愛すべき人はいない。そんな世界に人は住めない。当たり前だろう?なのにどうして君は泣いてる?真っ赤になった僕を見て、こんなに近くにいるのに…

ハロウィン

「とりっくおあとりーと!」 そう言って俺の胸に飛び込んできたのは俺の担任するクラスの少年だった。包帯でぐるぐる巻きになった身体を俺に預けて微かに茶色がかった眼でこちらを見る。こいつの眼が普通の日本人よりも茶色っぽいだなんて、きっとこの近さで…

音楽に溺れながら歩く早朝に口から零れるのは気泡ではなくて白く染まった吐息だった。二枚のレンズに狭められた視界は自らの吐息で色を変える。呼吸する度に凍えていく血液の活動は低下する。身体の内部から刺すように冷えていく感覚をリアルに感じながら踏…