無感情

彼とは横浜で別れた。
好きでもなかった人だった。別れの言葉を口にした時彼は泣いていて、ああこういう所が好きじゃなかったんだなと最後に気付いた。

横浜には喜怒哀楽が飽和していて、もはや誰もそんなものを求めていないから私たちのやり取りに眼を向ける人間はいなかっただろう。別れ話で男の方 が泣いているなんて、恥ずかしくて誰にも見られたくないもの。だから私は最後に横浜を選んだのかもしれない。私は昔から無意識に最善の選択を選んで生きて きたような気がする。

人ごみを掻き分けて一人電車に飛び乗った。まだまだ陽は落ちきっていなくて、京浜東北線はぐんぐん上っていくからそうだ東京で降りよう。目的地を決めた私はiPodの再生ボタンを押して眼を閉じた。


東京にいる間私の意識からは横浜の記憶なんてものはすっかりどこかへ捨てられていた。
東京駅で日本中の特産物を口にした。角煮まんはおみやげに二つほど買ったし、函館ラーメンは店で食べた。

食欲は満たされた。電車で少し眠ったから睡眠の方も欲求不満ではないし、昨日まで彼氏がいたから性欲だって貪欲ではない。なのになぜ私は笑えない?なぜ幸せではない?なぜ慢性的にアパシー
思考だけは客観的に働いている。そう、恐らく私には主観がない。彼は主観で泣いた。彼を恥ずかしいと思ったけれど、本当は羨ましかった。理性だけが肥大化した私は既に人間ではない。些細な結論にようやく辿り着いたin Tokyo.

これから私はどこへ行こう。