金環日食

太陽だって穴は空くんだ。


乾いた白米の塊を水で流し込みながら暗くなった明け方を肌で感じる。水はいつも通りカルキの臭いで濁っている。五月二十一日。何曜日かは忘れてしまった。高い声の群れが微かに通り過ぎるからきっと平日だ、そして恐らく彼らは僕と同じ学校に通う生徒だ、憶測でしかないけれど。

割れる音がする。割れる音がしたような気がする。僕の耳は既にほとんど使い物にならないけれどそのかわりに肌が過敏になった。空気の振動を肌で感じる。割れる音は僕を震わせてから身体を強張らせるチャンスをくれる。硬くなった身体に降るものは人間の手と思えないほどにごつごつと冷たかった。ひやりと感じる床の冷たさを頬で感じて眠たくなる。遠くで微かに怒鳴る音を聞いて、耳が使い物にならなくてよかったとこういうときに思う。静かに眠ることだけが僕の幸せだったから。

何万匹もの羊が目の前を飛んでいって眼が覚める。澱んだ窓の向こうで鳥が囀るのがなぜかはっきりと耳に届いて僕は飛び起きた、希望が見えたような気がしたから。開かない窓に張り付いて鳥を眼で追う。真っ青で小さな鳥がちらちらと羽ばたいて僕の目の前で踊った。きれいな色だと思った。昔のように、僕の手で君をキャンバスに写し出せたならどんなにか素敵な色になっただろう。夢を見て僕は微笑んだ。僕が笑うのを見て、青い鳥は太陽に向かって羽ばたいたのを最後に、それを追う僕の網膜は穴の空いた太陽にすっかり焼き尽くされてしまった。